ビジネス視点で読んだ荒木飛呂彦の奇妙な冒険のための地図
ジョースター家とその宿敵ディオの因縁を壮大なスケールで描く大河ドラマ、『ジョジョの奇妙な冒険』。
75年生まれのジャンプ育ちだったけれど、小学校で購読をやめたためボクにとって、
ジョジョといえば耽美で奇妙なあの強烈な絵のタッチと、クソ憎いディオの嫌な奴イメージしかなく……。
中学以降は、好きになっちゃう女の子が、“なぜだか必ずジョジョが好き♡”という以外に接点はありませんでした。
あ、グッチとコラボしたビジュアルは、最高だと思います。
さて、そんなジョジョと約20年ぶりの邂逅となったのが、作者である荒木飛呂彦先生が書いた書籍『荒木飛呂彦の漫画術』。「この本の内容を3分でわかるように整理・解説してみて欲しいな!」と、手渡していただいたのをきっかけにこの記事を書いています。
この本を超完結にまとめると
タイトルどおり、漫画作品作りの考え方と方法論が書かれたストレートな指南書です。
驚いたのは、内容が本質的かつ合理的である点。荒木先生は、変態的な才能と思考を持つ人だと勝手なイメージを持っていたので意外な驚きでした。
兵法の技術や心構えをまとめた宮本武蔵の『五輪書』や、人間関係の法則を書いたD.カーネギー『人を動かす』にも通じる普遍的なメソッドが散りばめられています。
マーケティング、ブランディング領域でのクリエイティブに視点と解釈を転換して、“どうしたら共感を得られるのか、どうしたら愛され続けるのか”と、本書に書かれてる内容を捉えたのですが、いろいろな発見がありました。
一貫するメッセージは、ヒットを分析する習慣を持ち、王道を抑えよ。
「ヒット作には理由がある。徹底的に分析する習慣を持ち、道標とすべき地図を持て」。
本書で貫かれる荒木先生の一貫したメッセージがこれ。地図とは手順や作法の王道のことを指します。
地図を持ち、明確なビジョン・目的・目標にブレずに向かうことこそが、売れる漫画作家になるための方法だと説いています。
このヒット作を徹底的に分析し別の視点で捉え直す訓練は、クリエイティブ業界で言われる「デコンストラクション」と同じです。
優れたマーケター、クリエイターに必要不可欠な習慣だと再認識しました。
漫画における地図とは「キャラクター」「ストーリー」「世界観」「テーマ」で構成されるといい、これを荒木先生は「漫画の基本四大構造」と表現しています。
重要な順序は①キャラクター、②ストーリー、③世界観、④テーマ。
本書の章立てもこの4つに分かれており、それぞれ学びになった要点を紹介していきます。
もっとも重要なキャラクターは、身上調査書でイメージを鮮明化する
漫画において最も重要なのはキャラクター。キャラクターがしっかりしていれば、キャラクターが勝手に動き出しストーリーまでも浮かんでくるのだと説きます。
キャラクターづくりで一番大切なのは、性格ではなくて動機。良い動機とは、読者の自然な倫理観にフィットする動機で、読者は正しいものへの共感力が強く、勇気こそ最も共感される動機だそうです。
キャラクターを設定する手法として荒木先生が編み出したツールとして紹介されているのが、身上調査書というもの。
動機や性格はもちろん、出身地や学歴、得意技、苦手なモノやコトまで、60以上にもおよぶ項目からなるシートで、これを詳細に埋めることでキャラクターの曖昧さをなくすのだそうです。
これはマーケティングでいうところのペルソナに近いもの。ストーリーとしての戦略を描く上で、イメージが生き生きとリアリティをもって動き出すかどうかを左右するペルソナを、どこまで詳細鮮明に描くべきかのヒントになりました。
ちなみにジョジョでは特技、得意技、必殺技から項目を埋めることから、キャラクターを鮮明化するやり方をするケースが多いとのこと。ペルソナで言う特技は……、なんなんでしょうね(笑)。
王道のストーリーはプラスが連続する物語
わかりやすいストーリー構成の鉄則は、起承転結である! と、ベーシックすぎる(苦笑)手法が紹介されていますが、ジョジョのように斬新、複雑に感じるストーリーも基本の軸を起承転結に置き、それを巧妙にズラしていくことで、強烈なオリジナリティを創りだしているという点が学びでした。
王道をズラすだけでも十分に新規性や独自性は発揮できるんですよ!
また、「これは本質だなあ」と強く共感したのは、読者の心を掴む王道のストーリーとはプラスが連続するストーリーであるという理論です。
漫画ではトーナメント方式の戦いがわかりやすい例で、敵に勝利する度に成長(プラス)し、優勝というゴールに近づいてく(プラス)というストーリーです。
※野球漫画の王道が、トータルでの勝率を競うプロ野球漫画ではなく高校野球なのは、この理論ですね
ユーザーの心を掴むにはプラスの連続であれ、という考え方は、ユーザーコミュニケーションにおけるゲーミフィケーションの設定に通じるところがあります。ユーザーを巻き込んだマーケティング戦略・戦術を設計する際には、そのストーリーとインタラクションがプラスの連続になるような仕組み、仕掛けをいれるべしと、心に刻みました。
世界観に重要なのはリアリティ。詳細に描くには自ら体験せよ。
世界観とは≒背景描写であり、読者がその世界に浸りたいと思わせられれば勝ち。そのためには詳細に描き、リアリティを追求せよと説きます。
世界観をリアルに描くうえでの心がけとして、ネットリサーチだけではなく、体験することの重要性を強調しています。
これには深く同意するとともに、戒めとして常に自分に、さらには周囲に問いかけ続けないといけないなあと…。時間的な制約を理由にしたり、知っているつもりになって小手先の作業にしてしまうことって“あるある”ですからね。
ちなみに寿司職人の場合に設定・描写する世界観の例はこんな感じで書かれていました。
荒木先生の世界観の詳細のレベルがわかる例です。
【鮨職人】
・朝の仕入れ
・店じまいの後片付け
・寿司を握るときの手の動き
・食中毒にならないための工夫
・季節ごとのネタetc.
テーマとは作者の哲学が反映されるもの。他人のテーマを生きてはいけない
「キャラクター」、「ストーリー」、「世界観」を統括しつなぐ要素がテーマであり、作品を描く中でゆらいではいけないもの。
テーマは作者の哲学が反映されるものであり、哲学が絵の描き方にもつながるのだと説きます。
やってはいけないことは、作者自身の人生に沿わない他人のテーマを生きること。
わたしはここまで読んで、荒木先生のいう「漫画の基本四大構造」を、イコール「ブランドの基本四大構造」として捉えて、もう一度本書を読みながら書き留めたメモを読み返しました。
奇妙な冒険も王道からはじまる
斬新、ユニーク、唯一無二な『ジョジョの奇妙な冒険』が、変態的な天賦の思考から生まれたのではなく合理的な王道を軸に、明確な意図を持った巧妙なズラしで、出来上がっているという事実を知れたのが本書の一番の収穫でした。
奇妙な冒険も王道から。
王道をおさえるのはヒットを分析する日々の習慣から。